今週は、ビリー・ジョエルのレニングラードをお届けします。
ウクライナ紛争は未だに解決の目途が立っていませんね。
今日の曲、レニングラードはソ連第二の都市、今のロシアのサンクト・ぺテルブルグのことです。
ビリーは1987年にソ連ツアーを行いました。モスクワで3公演、レニングラードで3公演を行いました。冷戦が終わろうとしている当時、アメリカとソ連は1985年のジュネーブサミットで文化交流の協定を結びました。その協定を受けてのツアーで、アメリカのミュージシャンがソ連でコンサートを行うのは初めてのことだったそうです。コンサートで演奏する曲目は、明るいアメリカらしい曲を選んだそうです。ツアータイトルはMatter of trust。ビリーの最新曲のタイトルでもあるのですが、「信頼関係」という意味です。当時のレーガン大統領とゴルバチョフ書記長は冷戦を終わらせるためにまずは自分たちの信頼関係構築に努めたと言われています。そして1989年のベルリンの壁崩壊、そして1991年にソ連の崩壊となりました。
コンサート・ツアーは大成功でソ連でもビリーは大人気となりました。
ツアー中、ビリーはサーカス団のピエロ役のビクト―ル・ラチノフに出会います。ソ連でのビクトールとの交流を通じてソ連に対する見方が変化するのを歌ったのがこの曲です。
歌詞の中には「レニングラードに来て、敵であるソ連人も私たちと変わらないのだと知った」というところがあります。冷戦時代、互いに相手が悪いというプロパガンダ教育を受け、ソ連イコール悪と頭に刷り込まれていたけれど、それは違うんだ、レニングラードに来てそれがわかったという内容です。
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ビクトールは第二次世界大戦末期の春に生まれた
でも父親とは会ったことがない
戦争孤児
レニングラード包囲戦の犠牲者の一人
学校では、国に仕えるのだと徹底的に仕込まれた
命令には従え、と
そしてウォッカはもちろんストレートで飲む
生きるためには嫌悪のエネルギーに頼るしかなかった
ソ連の生活はとても厳しく悲しい
それがレニングラードに生まれるということなのだ
俺は戦後生まれだ
マッカーサーの冷戦時代の生まれだ
38度線を死守するのを見て育った
アジアの赤どもをやっつけるのが使命だと植え付けられた
冷戦世代はとにかくしぶとい
向こうでも空襲避難の訓練で机の下に潜るんだってさ
奴らは俺たちがとっくに戦争に勝ったことを知らないらしい
いつまで戦ってるんだか
ビクトールも軍にいたことがあるらしい
退役してからサーカスのピエロになった
そしてそこで幸せというものを知った
子供たちを喜ばせること
ソ連の、レニングラードの子供を喜ばせることが
彼の幸せだった
まだ暑い10月のキューバでの緊張が高まると
地下シェルターで隠れて暮らす子供たち
いつまでも子供ではいられない
俺の友達も戦争に行った
一体何と戦わなきゃいけないって言うんだ？！
だから俺は子供とここに来た
ビクトールに会うために、目と目を合わせて話してみるために
ビクトールは俺の娘を笑わせてくれた
そして俺たちは抱き合った
ここに来るまで、レニングラードに来るまで
俺はロシア人のことを誤解していたみたいだ
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6月末にご紹介したスティングのロシアンズと似た内容の反戦歌ですね。今日の曲、レニングラードに出てくるビクトールは実在する人物で、ビリーのソ連ツアーで出会ったピエロです。ツアーに同行したビリーの娘、アレクサとも実際に遊んだんでしょう。
2015年にはビクトールがニューヨークにビリーを訪ねて来て、ビリーの本拠地のマジソンスクエアガーデンでのライブに招待されたんだそうです。
この曲、レニングラードはライブでは滅多にやらないんだそうですが、その時は特別にレニングラードが演奏されました。この時のライブのビデオでは客席のビクトールが最後に紹介されている場面も映っているそうです。
レニングラードはソ連建国時にロシアの指導者レーニンにちなんでつけられた街の名前ですが、現在では元々の名前であるサンクト・ペテルブルグに戻っています。聖ピーターの街という意味です。ピョートル大帝の名前に因んだ、ロシア第二の都市です。1917年、モスクワに遷都するまでは帝政ロシアの首都だった街です。第一次大戦でドイツと交戦すると、ドイツ語読みのサンクトペテルブルグが嫌われ、ロシア読みのペトログラードに改名されました。ブルグはドイツ語でお城、具ラードはロシア語でお城、そしてお城とは城下町とともにあるので転じて街を意味します。英語風に発音するとセント・ピータースバーグ。アメリカにはフロリダ州にロシア移民が作った街、セント・ピータースバーグがあります。大リーグのタンパベイ・レイズの本拠地の街です。この二つの街は双子都市協定を結んでいます。
ウクライナもそうですが、モスクワとレニングラード辺りの民族感情も色々と積年の確執があって、ボクたちには簡単には理解しがたいものがあるのでしょうが、ウクライナ紛争が早く解決することを願わずにはいられません。